【プログレ・メタルの金字塔】 Images & Words / Dream Theater 【アルバム全曲解説】
1992年に発表され、
世のメタル・ファンを驚愕させた傑作『イメージズ・アンド・ワーズ』。
このアルバムで名実ともにプログレッシブ・ヘヴィ・メタルの頂点に立った彼ら。
中心メンバーが音楽の名門バークリー音楽院の出身ということもあり、
「世界一テクニカルなバンド」として、今もなお音楽界の第一線で活躍しています。
前任Vo.が抜けてジェイムス・ラブリエが加入し、3年のブランクを経て発表されたこの2ndアルバム。
前作以上にプログレッシブな展開と変拍子を盛り込みつつ、あくまでメロディを主軸としたクラシカルなテイストが全体の印象をまろやかなものにしています。
では、一曲ずつ見ていきましょう。
1 Pull Me Under
アルバムのリードトラックは、比較的ストレートなメタルナンバー。
当初メンバー側は5曲目の「Metropolis Part.1」を1曲目に考えていましたが、レコード会社側の意向によりこの曲順となりました。
不穏なイントロから始まり、ザクザクと切り込むようなリフと怒涛の展開。
マイク・ポートノイのドラムは、打ち込みかと間違うほどの正確さで刻まれていきます。
サビは非常にわかりやすいリピートフレーズ。
エンディングは唐突にカットされていますが、次の名バラードの美しいイントロを、最大限に引き立たせる効果を発揮しているように思います。
8分という長さを全く感じさせない、完璧な曲の構成です。
ちなみに、発表当時MTVでかなりのオンエアを稼いだというPVでは、5分以内に収まるようかなり強引な編集が施されています。
2 Another Day
これ以上ドラマティックなメタル・バラードは今後出てこないでしょう。
おそらくメタルバンドがここまで効果的にサックスを取り入れた例も、これが初めてかなと思われます。
ジェイムス・ラブリエの伸びやかな声質、
ケヴィン・ムーアのクラシカルな音色、
全てが有機的に結合した奇跡のバラードです。
3 Take The Time
一転してファンキーなテイストを持つ楽曲が挟まれます。
変拍子の中をマイク・ポートノイのドラムが恐るべき手数の多さで突き進む。
かと思えば突然静かなパートが組み込まれたり、
その次の瞬間にはギターとキーボード、そしてベースによる完璧なユニゾンが駆け巡ったり。
ジェイムスはこの間、暇で仕方ないでしょうね。
個人的には6:30あたりからのパートの展開が非常に好み。
雨上がりの空が一気に晴れ渡るかのような爽やかさを感じます。
4 Surrounded
デレク・シュミリアンもジョーダン・ルーデスも素晴らしいキーボディストですが、
この雰囲気はやはりケヴィンの特権ですね。
ケヴィンの音には、『品』があります。
テクノロジー大好き人間のジョーダンは、どうしてもシンセの音がいかにもシンセ!な機械的な音になってしまいますが、ケヴィンの音色にはクラシカルな美を感じます。
この音色に対するセンスの違いが、いまだにこのアルバムを特別なものにしているように思うのです。
曲に話を戻すと、彼らのキャリアの中でもとりわけ清涼感の漂う曲がこのSurroundedになります。
ジェイムスのVo.の表現力の高さには驚かされますね。
中間部の高速ミュート・ピッキング(そういう言葉があるかは知らない)のギターソロは、他のバンドの楽曲でもあまり耳にしたことがない発明的なフレージング。
メタルやプログレのみならず、幅広い音楽的趣味を持つ彼らだからこそ造り得た師玉のポップソングです。
5 Metropolis Pt.1 ~ The Miracle And The Sleeper ~
ついに、真打ち登場です。
「ドリーム・シアターのすべてが凝縮されている」といってもいいくらい、完璧で今なお色あせない楽曲。
このテクニカルかつメロディアス、そしてドラマティックで息もつかせぬ怒涛の展開によって、プログレ・メタルは一つの完成を見たように思います。
この曲の肝はなんといっても中間部のインストゥルメンタルパート。
ジェイムスがライブ中に楽屋に休憩に行ったという伝説が残るくらい、このパートのボリューム感はすさまじい。
ライブの度に大歓声が上がるジョン・マイアングのベース・ソロ、
ギター・キーボードの高速ユニゾン。
ドラムも歌うかのような独創的なフレーズを次々と繰り出し、楽曲にさらなる彩りを添えます。
10分近い長さを全く感じさせない大名曲。
そして続編となる「Pt.2」は、もはや一曲でアルバム1枚分を使い倒すほどのボリュームとクオリティを以て、7年後に我々のもとに届けられることになります。
Metropolis Part 2: Scenes from a Memory
6 Under A Glass Moon
重厚で厳粛さすら漂うギターイントロから、
多くのドラマーがこぞってコピーした名ツイン・バス・ドラム・フレーズが登場する。
他の楽曲より心なしか硬めでひずみがちに聴こえるベースの音色が地味ながら好み。
少しミックスが大きめなのかもしれない。
ベースのレコーディング風景。
まさに「蜘蛛」のような手の動きが確認できます。
彼にはやはり、4弦ではもったいないなと感じてしまいます。
中間のユニゾンパートからギターソロが一気に駆け出す瞬間は鳥肌もの。
ところどころラッシュのアレックス・ライフソンを彷彿とさせるフレーズも聴かれます。
ソロのバッキングも相当な凝り具合。
7 Wait For Sleep
ジェイムスとケヴィンのデュオ。
嵐の前の静けさというべき、大曲のイントロとしての位置づけを持つ小品。
ケヴィンのキーボディストとしての力量がそこかしこに現れています。
殊にセンスという点では、彼ほどのキーボディストはいないでしょう…。
音色の選び方から抑揚の付け方、腰の据わった安定感など、彼にしか出せないムードが存在します。
もはや、「色気」「ロマンティックさ」と言ってもいいかもしれません。
貴重なケヴィンのレコーディング風景。
お遊びも随所に。
8 Learning To Live
ラストを飾るのも11分を超える大曲。
伝統的なプログレッシブ・ロックへの敬意が感じられます。
2ndアルバムにして、ここまで大物感の漂う楽曲が登場しているのも驚き。
中間の下降フレーズからの、アコースティック・ギターがリードするパートの雰囲気はジャンルの枠をはるかに超越しています。
ベースが濃霧のように低く立ち込め、聴くものに荒涼とした大地を連想させます。
彼らの登場により数多くのフォロワーが誕生しましたが、この音楽的な懐の深さを、同じ次元で体現できる強者はまだ登場していないように思います。
この曲はLive映像も素晴らしい。
「Pt.2」期のライブですが、当時このDVDを穴があくほど視聴したものでした。
後半部のレゲエアレンジが最大の聴きどころ。
※あまりに興奮して槇原敬之フリークの兄にこの映像を見せ、大いにドン引きされたのも懐かしい…。
この映像はこちらのDVDに収録されています。
映像・内容・音質などを含め、彼らのDVDの中でも特におすすめです。
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どうだったでしょうか。
気になった方は、ぜひ全編通して聴くことをオススメします。
あまりの完成度の高さに舌を巻くはず…。